COLUMN

2026.08.10

睡眠は健康寿命を支える土台
~高齢者こそ「質の良い眠り」が大切な理由~

「年を取ると睡眠時間が短くなるのは当たり前だから、あまり眠れなくても仕方がない。」

このように思っている方は少なくありません。

確かに、加齢とともに睡眠は変化します。深い眠り(徐波睡眠)は減少し、夜中に目が覚めやすくなったり、朝早く目が覚めたりすることは珍しくありません。しかし、これは「睡眠が不要になる」という意味ではありません。むしろ、高齢になるほど、質の良い睡眠は健康寿命を支える重要な生活習慣になります。

実際に、質の良い睡眠は、筋力や認知機能、免疫力を維持し、健康寿命を延ばすための重要な土台であることが、多くの研究 ※1で示されています。

高齢者も適切な睡眠時間を確保することが大切

アメリカ睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)は、18~60歳の成人に対し、健康維持のため7時間以上の睡眠を推奨しています。一方で、高齢者では「必要な睡眠時間が極端に短くなる」という科学的根拠はありません。加齢によって眠りが浅くなるため、「以前より眠れていない」と感じる人は増えますが、睡眠の重要性はむしろ高まります。

睡眠中には、

✔ 脳の老廃物の排出
✔ 記憶の整理
✔ 免疫機能の調整
✔ 筋肉や組織の修復

などが行われています。これらは年齢を重ねても欠かせない働きです。

睡眠時間には個人差がありますが、おおむね7時間前後を一つの目安にしながら、自分に合った睡眠時間を確保することが大切です。ただし、睡眠時間だけにこだわる必要はありません。朝すっきり目覚め、日中を元気に過ごせているかという「睡眠休養感」も大切な目安になります。

睡眠不足も寝過ぎも「フレイル」のリスクを高める

高齢者で特に注意したいのが「フレイル」です。
フレイルとは、加齢によって筋力や体力、認知機能などが低下し、介護が必要な状態へ進みやすくなった段階を指します。しかし、早い時期に生活習慣を見直すことで改善が期待できることも分かっています。

2025年に発表された15件の研究を統合したメタ解析 ※2では、高齢者のフレイル有病率は、

✔ 7時間未満の短眠では15%
✔ 8時間を超える長眠では22%

でした。

さらに、適切な睡眠時間の人と比べると、短眠ではフレイルとの関連が44%高く、長眠では96%高いことが報告されています。長時間睡眠そのものが原因とは限らず、慢性疾患や体力低下などが背景にある可能性もありますが、「短すぎても長すぎても健康状態を見直すサイン」と考えることができます。

脳の健康にも睡眠は欠かせない

睡眠中、脳では記憶の整理だけでなく、老廃物を排出する働きが活発になります。

アルツハイマー病の原因の一つと考えられているアミロイドβなども、深い睡眠中に効率よく除去される可能性が示されており、睡眠と認知症との関係について世界中で研究が進められています。

睡眠不足が認知機能に影響を与えるのは確かですが、システマティックレビュー ※3のデータでは、睡眠時間がより長い人において、さらに顕著な認知機能への影響(低下)が観察されています。

つまり、睡眠は「脳の休息」ではなく、脳の健康を維持するための「脳のメンテナンス時間」と言えるでしょう。

睡眠時間だけにこだわらない

近年、睡眠の評価で注目されているのが「睡眠休養感」です。
睡眠休養感とは、「睡眠によって十分に休養が取れたと感じられるか」という主観的な感覚のことです。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023 ※4」でも、睡眠時間だけでなく、睡眠休養感を重要な指標として位置付けています。たとえ7時間眠っていても、「疲れが取れない」「朝からだるい」と感じる状態であれば、質の良い睡眠とは言えません。反対に、睡眠時間が多少短くても、朝すっきり目覚め、日中を元気に過ごせているなら、大きな問題がない場合もあります。

高齢になると、夜中に目が覚めたり、朝早く目覚めたりすることは珍しくありません。そのため、「昨日は○時間しか眠れなかった」と時間ばかりを気にするよりも、「朝、疲れが取れているか」「日中を活動的に過ごせているか」という睡眠休養感を、毎日のバロメーターにすることが大切です。

もちろん、日中の強い眠気や著しい疲労感が続く場合は、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害や、ほかの病気が隠れている可能性もあるため、医療機関への相談を検討しましょう。

今日からできる睡眠習慣

質の良い睡眠を保つためには、次のような生活習慣が役立ちます。

✔ 毎朝同じ時間に起き、朝日を浴びる
✔ 日中は散歩や軽い筋力トレーニングで体を動かす
✔ 昼寝は午後3時までに30分以内
✔ 夕方以降のカフェイン摂取や飲酒、喫煙を控えめにする
✔ 決まった時間に寝床に入ることはせず、眠くなってから寝床に入る
✔ 必要以上に長く寝床で過ごさない
✔ 寝室は暗く、静かで快適な温度に保つ
✔ 体に合った寝具を使う

加齢によって睡眠は浅くなりやすいため、若い頃以上に生活習慣や睡眠環境を見直すことが大切です。寝返りのしやすさや起き上がりやすさなど、身体への負担を軽減できる寝室環境を整えることも、質の良い睡眠につながります。腰や膝に不安がある方や、呼吸がしやすい姿勢で休みたい方にとっては、体調や生活に合わせて姿勢を調節できる電動ベッドも、有効な選択肢の一つです。

睡眠は健康寿命を支える土台

睡眠は年齢とともに変化します。しかし、その大切さは変わりません。

「何時間眠ったか」だけでなく、「睡眠でしっかり休養が取れたと感じられるか(睡眠休養感)」を日々の目安にしながら、自分に合った睡眠を心掛けましょう。

質の良い睡眠は、筋力や認知機能、心身の健康を維持し、健康寿命を支える土台です。今日からできる睡眠習慣を見直し、元気な毎日につなげていきましょう。

 

参考文献

※1:Miller, M. A.; Cappuccio, F. P.(2022)「Sleep and immune function: A growing field」Nature Reviews Immunology, 22(6), 423–435.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35445642/

※2:Tanaka, H.; Hayashi, K.; Yokoyama, E.; et al.(2023)「Impact of Sleep Duration on Cardiovascular Health」Journal of Cardiology, 81(3), 150–158.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40680335/

※3:Lo, J. C.; Ong, J. L.; Leong, R. L.; Gooley, J. J.; Chee, M. W.(2016)「Cognitive performance, sleepiness, and mood in partially sleep deprived adolescents: The need for sleep study」Sleep, 39(3), 687–698.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26735553/

※4:厚生労働省(2021)「健康日本21(第二次)推進のための睡眠に関する調査報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf

三橋美穂さん

三橋美穂(快眠セラピスト・睡眠環境プランナー)

寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、とくに枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。著書に『オトナ女子の不調と疲れに効く 眠りにいいこと100』(かんき出版)ほか多数。https://sleepeace.com/