三橋美穂(快眠セラピスト・睡眠環境プランナー)
寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、とくに枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。著書に『オトナ女子の不調と疲れに効く 眠りにいいこと100』(かんき出版)ほか多数。https://sleepeace.com/
COLUMN
2026.10.07

秋が深まり、空気の乾燥が気になり始める10月。肌がつっぱる、粉を吹く、化粧のりが悪い……そんな変化を感じる方も増えてきます。
肌の乾燥対策というと、保湿クリームや美容液など「何を塗るか」に目が向きがちです。しかし、健やかな肌をつくるためには、外側からのケアだけでなく、毎日の「睡眠」も重要です。
実は、睡眠の質が低下すると、肌のバリア機能や回復力にも影響することがわかっています。乾燥する季節だからこそ、「眠っている間に肌を休ませ、整える」という視点を持ってみましょう。
肌の一番外側にある角層は、外部からの刺激を防ぐと同時に、肌内部から水分が逃げるのを抑える「バリア」の役割を担っています。
このバリア機能が低下すると、水分が逃げやすくなり、乾燥や刺激を感じやすくなります。皮膚のバリア機能を評価する指標の一つが「経皮水分蒸散量(TEWL)」です。TEWLが大きいほど、皮膚から水分が失われやすい状態を示します。
では、睡眠とこのバリア機能にはどのような関係があるのでしょうか。
2015年に『Clinical and Experimental Dermatology』に発表された研究 ※1では、睡眠と皮膚の状態を比較しています。
即ち、「睡眠の質が低く、睡眠時間も短い女性」と、「睡眠の質が高く、十分な睡眠時間を確保している女性」を比較した研究で、テープを用いて角層に負荷をかけ、その後の皮膚バリア機能の回復状況を調査しました。その結果、睡眠の質が高く十分な睡眠をとっている女性のほうが回復が良好で、72時間後の時点ではバリア機能の回復率が約30%高かったことが報告されています。さらに、紫外線によって生じた肌の赤みからの回復も良好でした。
もちろん、この研究だけで「長く眠れば肌が健やかに保たれる」と結論づけることはできません。しかし、睡眠の質と皮膚のバリア機能には関連があることを示す興味深いデータです。
秋から冬にかけては、気温の低下に加えて暖房を使うことで、室内の空気も乾燥しやすくなります。
低湿度や低温は、皮膚のバリア機能に影響し、乾燥や刺激を感じやすくすることが報告 ※2されています。そのため、スキンケアだけでなく、睡眠中の環境を整えることも大切です。
まず確認したいのが寝室の湿度。湿度が低いと感じる場合は、加湿器を利用するのも一つの方法です。米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology)も、乾燥肌への対策として加湿器の使用を推奨 ※3しています。
ただし、加湿すればするほどよいわけではありません。過度な加湿は結露やカビなど、別の問題につながります。湿度計で実際の数値を確認しながら40~60%に調整しましょう。
睡眠と合わせて見直したいのが、夜のスキンケアです。
入浴後は、肌が水分を含んでいるうちに保湿することがポイントです。米国皮膚科学会は、入浴後の肌がまだ湿っているタイミングで保湿剤を塗ることを勧めています。クリームや軟膏は、ローションよりも水分を保持する効果が高いとされています。
また、乾燥しているからといって、熱いお湯で長時間入浴するのは逆効果です。
熱いお湯や長時間の入浴は、肌の乾燥を悪化させる可能性があります。ぬるめのお湯で短めに入浴し、タオルでゴシゴシこすらず、やさしく水分を拭き取ってから保湿する。このシンプルな習慣が、乾燥対策の基本になります。
美容睡眠というと、「○時間眠れば美肌になる」「○時までに寝れば肌にいい」といった話に結びつきやすいものです。しかし、睡眠と肌の研究から考えると、もっと本質的なのは、十分な睡眠時間を確保し、睡眠の質を大きく損なわないことです。
そのためには、就寝時刻だけを気にするのではなく、眠る前から睡眠に適した状態をつくることが大切です。
夜遅くまでスマートフォンを見続けない。寝室の灯りを落として静かにする。暑すぎたり寒すぎたりしないよう温度を調整する。乾燥しているときは湿度を確認する。そして、入浴後は肌をやさしく保湿する。
こうした一つひとつの習慣が、眠りと肌の両方を支える環境になります。
乾燥する季節になると、つい新しい化粧品を探したくなります。
もちろん保湿は大切です。しかし、肌は化粧品だけでつくられているわけではありません。
睡眠、食事、ストレス、温度や湿度など、さまざまな要素の影響を受けています。
特に睡眠は、毎日繰り返す習慣だからこそ、その影響は小さくありません。今夜からできることは、特別な美容法ではありません。「きちんと眠れる寝室」と「乾燥から肌を守る環境」をつくること。そして、肌が乾燥しているときには、洗いすぎたり、こすったりせず、入浴後の保湿を習慣にすること。美容は、何かを「足す」ことだけではありません。
毎晩の睡眠という、誰もが持っている時間を大切にすることも、美しい肌を育てるための一つの方法です。乾燥する季節こそ、スキンケアだけでなく「睡眠ケア」も始めてみませんか。
参考文献
※1:Oyetakin-White, P.; Suggs, A.; Koo, B.; Matsui, M. S.; Yarosh, D.; Cooper, K. D.; Baron, E. D.(2015)「Does poor sleep quality affect skin ageing?」Clinical and Experimental Dermatology, 40(1), 17–22.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25266053/
※2:Engebretsen, K. A.; Johansen, J. D.; Kezic, S.; Linneberg, A.; Thyssen, J. P.(2016)「The effect of environmental humidity and temperature on skin barrier function and dermatitis」Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 30(2), 223–249.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26449379/
※3:American Academy of Dermatology Association(2021)「Dermatologists’ tips for relieving dry skin」https://www.aad.org/public/everyday-care/skin-care-basics/dry/dermatologists-tips-relieve-dry-skin

寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、とくに枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。著書に『オトナ女子の不調と疲れに効く 眠りにいいこと100』(かんき出版)ほか多数。https://sleepeace.com/